新建築「住宅特集」2009.09 掲載

メディア掲載

伝統構法について

もう十四年も前のことになりましたが、阪神・淡路大震災の日、自宅で被災しました。私の家と隣のプレハブ住宅以外周囲には大正十二年頃に借家として建てられた日本家屋が建ち並んでいました。プレハブ住宅は階段がはずれて50㎝程床が傾き、古い家屋は壁が傾き一部屋根が潰れたところもありましたが、亡くなった方はおられませんでした。恐ろしい思いをした家は心情的に嫌だということ、解体撤去が無料ということで、それらの家はなくなり、周囲は空地になってしまいました。しかし後から冷静になってみると、建て起こして修理すれば使えたのであり、維持管理をしていない建物もあったので、一概に日本家屋の構法が地震に弱かったとはいえないと思いました。ところがマスコミでプレハブ住宅は強く、伝統的な建て方の家屋は弱いということが強調されたこともあり、震災後金物の使用が義務付けられ、近年ますますその傾向は強まっています。
日本の建築文化は社寺仏閣において素晴らしいだけでなく、いわゆる民家といわれる住宅においても日本全国その地域によって、気候風土にあわせて工夫を凝らし、長い年月をかけて改良を重ね、つくり上げてきたものがあります。
その文化の担い手として、高い技術をもった職人達がいて、宮大工だけではなく、民家をつくることができるたくさんの大工が地域にいて、その価値を理解する多くの人びとがいました。
ところが、現在は法改正により伝統的な建て方で住宅を作ろうとしても、構造計算適合性判定にかけなければならないため、設計工程上のハードルは高く、予算が厳しい住宅ではツーバイフォーや木質ラーメンでないなら、在来木造軸組構法を選ばざるを得ない状況にあります。
在来木造軸組構法は、大工の技術を問題にしていないため、今ならまだ地域におられる技術の優れた大工さんの腕の見せ所がありません。プレハブやプレカットで金物を使った構法の家が大部分を占め、仕口、継手を使った住宅が建たなくなれば、日本の建築文化を支えてきた技術をもつ大工がいなくなるのではないかと危惧します。建築文化は新しい構法、昔からある構法のほか、あらつる建築技術に支えられています。住宅において昔からある構法を使えなくなることは、伝統技術の基盤がなくなることを意味しています。
阪神・淡路大震災以降木構造についての研究が盛んになり、最近、大型振動台「E-ディフェンス」で伝統木造の耐震性を調べる実験が行われました。工学的な方法で耐震性を解明し、設計手法をつくる方向で研究がなされているようです。伝統木造の復権の糸口となれば、たいへん喜ばしいことですが、伝統構法の定義がないため、関西には多くある礎石建ちが認められていないことや、地域によってさまざまな伝統構法を公約数的に規定しなければならないことなど、いろいろな問題を含んでいます。なるべく多くの人々が日本の誇る伝統構法を用いることができるような研究と法整備が望まれます。
現在日本国内の森林の一年間の成長した分だけで、一年間に建つすべての木造住宅の木材を賄えると聞いています。いろいろな問題はありますが、自分ができることからする以外にないので、国産の木を用い大工の技術が生きる架構を考えていきたいと思っています。それは、問題解決のためというより、本心は伝統的な構法が好きだからですが・・・