新建築「住宅特集」2009.12 掲載
「STONE TERRACE」をたずねて 土井一秀建築設計事務所
丘のような山の斜面で、「STONE TERRACE」は美しい風景となっていた。
広島市街を車で抜けると小高い山が次々と現れ、一時間ほど走ると石州瓦の屋根の民家が点在する。田圃の畦道より少し広い道を進むと、棚田の石積みが美しく並んでいる。結構急な斜面で、石積みの高さは高い。棚田の中腹には歴史を感じさせる母屋があり、その少し下に片流れの屋根をもつ、「STONE TERRACE」が埋め込まれていた。
棚田は斜面を利用して面積と日射を最大限に確保し、山からの湧水がすべての場所にいき渡る仕組みになっている。最初母屋の隣の道路から遠いということで、一段低い棚田になった。しかし、この場所だったからこそ「STONE TERRACE」は風景の一部になることができた。よく似たプロポーションの資材置き場の小屋がすぐ近くにあり、「STONE TERRACE」の屋根の勾配はこの小屋に揃えられている。美しい風景となるにはさまざまな工夫がなされている。
この住宅は棚田二枚分なので、田圃と同じ自然の恵みを享受することになった。太陽・風・水である。室内にいても太陽が時間と共に動き、陽の当たる場所が移動していくのが分かる。四方に設けられた開口から心地よい風が通り抜ける。北の嵌め殺しガラス部分は、枠下の隙間から入ってきた空気が、床にある無双窓の仕組みになった板の丸い穴から吹き込むようになっている。そして、一段上の田圃の上を流れる湧き水にパイプが突っ込まれ、そこから入った水は建物の下を通って、水盤を満たす。
棚田の石積みに屋根だけを架けたような形は、自然の中にいるような、まるでイネになったかのような気分にさせてくれる。床は青空を映し込む水盤へと広がり、天井は空や林へと続く。棚田の石積みは家の中まで入り込み、室内の石積みは棚田石積みへと続いていく。ここでは三六五日自然の移り変わりを感じることができる。太陽、水、風、石、木々や田畑、草花は折り折りに変化し、見る人を楽しませる。特に石はその時々で表情を変え、語りかけてくれる。
石積みにはすべてこの土地から出た石が用いられ、建物回りのみ石工さんが積んでいるが、その他ほとんどは建主のお父さんが積んでいる。池の回り、浴室に面した庭、玄関の敷石、玄関前の階段、庭のあちこちに置かれた石たち、これらはこの住宅がより一層輝きを増し、心地よくなる外構をつくっている。
本格的な料理ができるキッチンでは、四世代の建主一家が育てた野菜を使っておいしい料理がつくられる。お祖父さんとお父さんがつくった池のある戸外で元気に遊ぶ子供。それぞれに隠れ家的アトリエで趣味の絵を楽しむおじいさんや曾おじいさん。「STONE TERRACE」は、池に足がついた豊かな生活を営まれるご家族にふさわしく、見事だと思う。