新建築「住宅特集」2010.02 掲載

メディア掲載

Steel Truss を訪ねて 木村博昭+Ks Architects

「Steel Truss」は私にとって、とてもインパクトのある建物だ。鉄に対する私の既成概念をことごとく打ち砕いてくれたように思う。見学前に読んだ本誌の記事に「鉄はエッフェル塔に代表されたように、その美しさはレース模様の意匠と構造の一体性」とあったが、意匠と構造の一体性にまで理解が及ぶ以前に「エッフェル塔のレース模様の意匠」という時点で理解しがたかったが、見学した今はエッフェル塔のレース模様に肯けるから不思議である。一見奔放にデザインされたかのような水回りのスチールボックスと鉄の茶室は屋根を支えており、やはり意匠は構造と一体化してこそ美しいと思った。
大阪から1時間程の自然に恵まれた山の斜面に「Steel Truss」は周囲の景観に溶け込んで控えめに佇んでいた。外壁は白く本来なら目立ちそうだが、その形態と高さを抑えた平屋であることによって、木立に美しく納まっていた。真っ白い建物は好みではないが、デザインがよいので、そんなことは気にならない。敷地にあった木々を残し、斜面中腹の平らになっている場所に建物が建てられている。
寝室群と茶室はランダムに配置されている。敷地の傾斜に合わせて寝室のひとつは半階上がったところにある。部屋から部屋へと移動に伴って、おもしろい造形が目に飛び込んでくる。茶室は鉄であり、パオ型であるにもかかわらず、そのほのかな明るさと密室性、遊び心、素材を生かしていることによって、ここでお茶会ができるといいな、と思わせるものであった。そして充分客間としても機能し、居心地が良さそうだった。これと対照的にリビングは単純な四角い平面で三方のガラス面からは自然の木々が眺められ、天井は屋根と同じ曲面になっており、ほどよい高さである。この曲面をどういう風にして決めたのかを木村さんに尋ねると「屋根の鋼板パネル一枚で葺ける長さにしている」と答えが返ってきた。図面で見ていると埃溜りになりそうな浴室の天井は外して洗うことができ、掃除ができそうにないトップライトのガラスは誰でも簡単に屋根に上れるようになっていて拭くことができる。木村さんのデザインは自由奔放に見えて、実は構造、施工性、メンテナンスなどのよさに根差している。雑誌ではそんなところまで読み取れず、実際に見てみないと分からないものである。水回りボックスは建物の中央部にあり、大きなトップライトがある。電動で開けるとエッジのきいた開口から周囲の木々と広い空が見え、まるで中庭に居るかのように気持ちがよい。室内は丸型モザイクタイルが美しく貼られているが、外側は鉄の素地にクリアラッカーをかけただけである。鉄の茶室は内外ともやはり同じ仕上げで、溶接の跡もデザインされたかのように思える。
使い方が上手だからなのだろうが、鉄ってこんなに多面性のある素材だったのだとすっかり鉄に魅せられてしまった。木村さんに鉄の魅力を教えていただいた。