新建築「住宅特集」2010.03 掲載
国産材を見直す
このたびの「木の住空間2010」は木のさまざまな使い方による住空間が提案され、木には多くの可能性があることを教えられた。特に「流星庵」は全て90㎜角の製材の木組みにより、美しく心地のよい住空間がつくられている。ルーバー状のフレームは使い方によっては室内に露出しすぎてうるさい感じになるが、この住宅は、玄関から浴室までの廊下を含んだ空間に限定され、バランスの良い配置になっている。天井下と床上に柱が露出するスリット状の開口部を持つ耐力壁「貫仕様構造用合板張り真壁」もまた名解答である。
この住宅を取り上げた理由はほかにもある。荒れゆく日本の森林にとって、90㎜角の製材でこれだけのことが成されている住宅は国産材需要低迷の救い主のように思えたからである。このようなつくり方の住宅が増えていけば、木材の良さが認識されていくのではないだろうか。
白井裕子氏の「森林の崩壊 国土をめぐる負の連鎖」によると「木の蓄積量は・・統計上は毎年8000万㎥ずつ増え続けていることになる。・・我が国は世界有数の木材消費国だが、その数字だけ見れば、・・国内で毎年自然に育つ増加分だけで、莫大な国内需要をまかなえそうなぐらいだ」「しかし、木材自給率はたったの2割である」。伐採時期を迎えた木々が切られずに放置され、森林が荒れている。これにはさまざまな要因があり、一朝一夕では解決できないが、自分にできることから始めたい。産直住宅ではもうすでに行われていることだが、住宅に使う木を実際に森林で見てもらうことで、ひとりでも多く森林に関心を持ってもらえればと思う。木のよさを生かした住宅を考えることも必要だ。
有馬孝禮氏の「木材の住科学 木造建築を考える」では「『都市の森林』-もうひとつの木質資源」という考え方が述べられている。それによると「我が国の住宅に保管されている木材による炭素量は、日本の人工造林の森林で蓄積されている樹幹部分の材積の48%程度に相当し、・・我が国は都市に炭素を木造住宅として貯蔵してきたことになる」。森林から切り出された木は木造建築となって、炭素を固定し、木を切った後には植林された木がまた新たに二酸化炭素を固定する。そして「循環型社会は循環資源を生産する森林と『都市の森林』が連携することにほかならない」という指摘は胸に刻んでおきたいと思う。今年から住宅版エコポイント制度が始まったが、外壁、窓などの断熱性能と高効率の建築設備という省エネのみが対象とされ、環境問題の本質とはほど遠い。せっかくの機会なのだから国産材の使用も対象になれば多くの人びとの関心が集まるのではないだろうか。
「住宅材料が日本の木か外国の木か考えたことがない」というのが、大多数の人びとの考えのようである。これは住宅のつくられ方に起因していると思う。たとえば、プレハブのように、すべて大壁でくるんでしまえば、一般の人びとには構造材に木が使われているかどうかは、まず考えが及ばないであろうし、それが日本の木かどうかなどまして分からない。これは、自然の木が見えるデザインされた住宅の心地よさを知らないからではないだろうか。木の構造材が見え、板材が身近にあるようにデザインされた住宅が増えていけば、木に対する関心も高まるように思う。デザインはもちろんのこと、本当の意味での地球環境への配慮も私たちに求められていると思う。