新建築「住宅特集」2010.07 掲載

メディア掲載

環境を自然とつながる家から考える

6月号の特集「環境への視線-熱・光・音etc.の設計手法」における作品はそれぞれに真摯に環境について取り組んでおられました。「T博士の家」はコンクリート造であることと、緑がないことを認識して、多くの環境への配慮をしっかり行い、環境実験住宅には見えない美しい家であり、素晴らしいと思います。「日本では環境という言葉が定着したのはいいけど、それがいわゆる物理的な環境性能に偏っている。本来環境というのは、景観を含めて審美的な側面があって成り立つもので、両者の融合が置き去りにされているのが問題です」ということを古谷誠章さんは述べておられますが、現状の問題点の本質を突いた発言です。
アルミを構造体、放熱器として利用した「A-ring」はアルミを上手に使ったデザインもよく、輻射冷暖房で省エネルギーの取り組みに成功しています。ただ炭素放出量の話になるとアルミを作る過程で木とは一桁違うエネルギーを要しているので、省CO2という点では疑問が残ります。エコを謳っているものが氾濫する中、何か引っかかるのは、それぞれの製品ができるまでのエネルギー量を計算に入れず、使用時に以前より省エネルギーであれば、まるで環境にとても良いかのように宣伝するからではないでしょうか。一軒の住宅があることによる環境に対する負荷は、さまざまな観点から考えた総合点であり、何か一点を満足すればよいというのではなく、多角的、総合的に取り組む必要があり、バランスが大事だと感じます。
T博士の発言に「今後は室内環境と断熱が義務化される動きもあります」とあるのを読んで驚きました。義務化は政策のいきすぎで、高気密高断熱の家でなければならないと法律で決めることは少数派の人たちを切り捨てることになりますし、建築の多様性を阻害することにもなります。昨今の建築についての事細かな法律は目に余るところがあり、このままでは建築文化は停滞するのではないかと感じるのは私だけでしょうか。断熱、気密はほどほどがよいという人も結構いて、私もそうですが、高気密の家は隙間風がないせいか圧迫感があって、居心地がよくありません。夏に締め切ってエアコンをつけた時に、少しのエネルギーで家全体が涼しくなることより、窓を開けて自然の風を通し、汗をかいても暑さを我慢する方が気持ちよいと感じる人もいます。
私たちが室内環境をよくすることに気を取られている間に、空気や海の汚染も身近に感じるほど進んでいます。このような現状を少しでもよくし、広い視野で物事を考えることができる人が増えていくような設計の住宅が増えてほしいと思います。その住宅が広い意味で自然と繋がる家であるかどうかが大きな問題だと思います。オフィスなどはコントロールすべき環境ですが、住宅ではあまりコントロールしすぎず、日本の穏やかな気候、四季を感じることができるように。そして夏や冬はいくぶんか暑かったり寒かったりするけれど、それを忘れさせるような魅力のある家であれば、それをストレスと感じず、人間が本来もっている感覚が正常に機能するようになるのではないかと思います。
室内環境を省エネルギーで整えることは確かに素晴らしいことですが、未来を担う子供たちがその住宅で暮らし、その家から目に見えない影響を受けた時に、自分のことだけでなく地球規模での環境を考えることができるような、そんな大人に育つ家を設計できるように、日々励みたいと思っています。