新建築「住宅特集」2010.08 掲載

メディア掲載

「守谷の家」 伊礼智設計室

東京近郊につくられた新しい住宅地に、住宅メーカーの商品化住宅がびっしり建ち並んでおり、その中にひときわ低い「守谷の家」がひっそり佇んでいる。外に対して友好的な塀の高さは中が見えるくらいに抑えられ、周囲に威圧感を与えない。道路と反対側の敷地は緑道に面し、建主さんと行き交う人の間で挨拶が交わされ、なるほどこの地域ならでは、と思わせる。
「守谷の家」は「佇まい再考」で伊礼さんが述べておられるように、簡素で素朴で品のある佇まいの「銘苅家」の影響を受けている。「心地よい佇まい」のいくつかの要素として建築、環境、設備、素材などを挙げられ、そのひとつに抑え込まれた寸法を取り上げ、建物の高さも面積も縮小コピーをかけたかのように絞られている。天井高は2,100㎜ほどで、手を伸ばすと届く高さでありながら、部屋や窓の大きさとのバランスがよいので、実際には心地よい低さである。床面積も事務所スペースを含んで100㎡ほどなので、決して広くはないが、部屋の平面的なつながり方や吹抜け、開口部のあり方によって、実際の広さよりもずっと広く感じられる。関西の物件は敷地も床面積も大きくなりがちだが、その広さが本当によいのか、よく熟慮したいと思う。
伊礼さんは「必要以上に大きな家を建てないことがエコではないか」と話しておられる。確かにそうともいえるが、この話は建築をエネルギー消費面のみでとらえているかのような誤解を招く。環境への負荷は消費エネルギーのみで判断されることでなく、住宅をつくることに始まり、その後のすべての方面から環境への配慮を検討した結果、導き出されなくてはいけないと考えている。
断熱材にセルロースファイバーが用いられていた。私が何度となく調べながら、まだ使えていない材料だが、体感してみるととても心地がよい。外はかなり気温が上がっていたが、室内はさわやかで風が通り抜ける。断熱はしっかりなされ、リビング・ダイニング、主寝室に木製建具が使われていて、気密性はほどほどになっている。伊礼さんは「やりすぎず、ほどほどに」を信条にしておられるそうで、この心地よさはシラスが原料の左官壁に依るところも大きく、喫煙家のお宅だが、まったく臭いは感じられなかった。
伊礼さんは、いくつかのメーカーの製品開発にも携わっておられる。樋メーカーの人によいデザインの樋がないと話しているうちに、樋のデザインを担当することになったそうである。建築家は既製品でよい物がないと分かると、金物屋さんにお願いして特注品を作成することになりがちだが、このような姿勢が大多数の既製品のレベルを容認することになり、現在の状況を招いているのかもしれないと反省する。私は一匹オオカミ的なことが好きであるが、これからはいろんなところと手をつなぎ、住宅の平均的価値を上げるために協力し合う時代なのかもしれない。伊礼さんは、すでにそういうことにも取り組んでいらっしゃるのである。