新建築「住宅特集」2010.10 掲載
「OKA MASAKAZU HOUSE」 元良信彦/モトラデザインスタジオ
軽井沢の繁華街からほど近い別荘地。きれいに手入れされた敷地の中に、真新しい板貼りの山荘は佇んでいた。庭を挟んだ向かいに母屋も控えめに建っている。元良さんはこの改修工事にあたって、竣工してから76年の間にまるで別の建物のように改造されていた箇所を取り除き、建主ご家族が軽井沢での山荘生活を満喫できるように行き届いた設計をされている。ご自身は黒子に徹して、アントニン・レーモンドの設計が生かされている。この姿勢こそが歴史的建造物修理の基本精神であり、すばらしい改修設計になっているゆえんだと思う。
1000坪ほどの敷地に母屋と別邸がある。「……周辺環境の整備が別邸本体の改修と同等か、それ以上に重要な意味をもつことにいき着いた……」と元良さんが述べておられるが、別邸建物だけの修理にとどまらず、敷地全体を再生されたところに今回の改修の意味がある。修理前の敷地写真を拝見すると雑然と樹木が建ち並んでいたが、それらの木々は隣家が見えないように、そして建物から見える景観がよくなるように移植されている。母屋の建物は建主の奥様が間取り図を書いて、建てる前にレーモンドに見せて了承してもらったそうだ。その時には別邸はなく、庭側は水回りが並んだ閉鎖的なプランになっていた。改修に当たって、親家族が住む母屋と息子家族が住む別邸との関係が見直され、お互いに美しい景観を享受しながら、適度な家族のつながりが持てるように母屋のプランは変更され、北東の庭に向かって開いたリビングダイニングになっている。正面から向き合わず、少し振れていて両棟間に距離もあり、樹木もちょうど良い位置に植えられているため、ほどよい関係になっている。別邸の玄関へと至るアプローチは土が盛られて笹が植えられ、入り口らしい設えもなされて、全体計画がよくまとめられている。「OKA MASAKAZU HOUSE」は生き生きとよみがえった。
現代生活にあわせて水回り部分は改変されている。それらは、レーモンドでもこのように改造したのではないかと思わせるほど、当初の建物に溶け込んでいる。また垂木の軒部分が腐っていて取り替えられているが当初のデザインが損なわれないよう上手く納められている。(詳しくは内田祥士さんの訪問記参照)リビングの南部分には2階がなく、屋根になっている。この屋根はどういうわけか2階の窓敷居より部分的に高くなっていて屋根を流れる水が入ってきてしまっていた。それも、このたびの修理に際して板金で立ち上がりがつくられ、雨仕舞が良くなった。
今回の事例は巨匠の設計ということもあって、設計思想が大切にされ、できる限りオリジナルに戻すように改修された。残り続けている古い建物は、どのような人がつくったものであっても、そこに当時の哲学や技術が込められている。そうした建物の改修を行う建築家は元良さんのように、歴史を尊重しつつ敷地全体を計画し、現代において生活できる建築を創造していけるようでありたいと思う。