新建築「住宅特集」2010.11 掲載

メディア掲載

ディテールを考える時

今月の特集「『住空間のディテール2』スケール感を生み出す」は設計者のディテールに関する考えや詳細図が掲載されていて興味深いものでした。そしてもう一度自分のディテールを問い直すよいきっかけにもなりました。「帝塚山のセミコートハウス」の開口部のディテールは開口部を閉じる時の装置を完璧に準備しながら、開ける時の内外の一体感を美しく実現しています。「多面体の屋根」は詳細図の掲載はありませんが、写真からディテールがあらゆる箇所において申し分なく納められている様子が見てとれました。「海と山に浮かぶ家」のリビングダイニングの開口部のディテールは、鴨居の高さにあるキャットウオークと軒、天井と開口の高さが詳細に検討され、斜面に迫りだしながら安心して景色を楽しめる窓を実現しています。
設計をする時、建物のイメージとプランの方針が浮かぶと、その次に考えるのはディテールの方針を考えますが、私にとってディテールは、イメージから実際のかたちになる「とっかかり」のようなものです。建築には作者の哲学と人間性が現れていると思いますが、建築を構成するディテールにもよく現れています。建築の中で大切にする要素によってその納め方は変わりますが、たくさんの要素、優先順位の高い要素から低い要素まですべてを満足する納め方が見つかった時、そのデザインを決定します。そこで重要になるのは、経年変化への対応です。通常は50年後ぐらいの変化を目安に考えますが、登録文化財の改修工事だと、80年から120年ほど経った建物に携わることになります。独立して最初の仕事がそうでした。このような場合、部分的に解体するので、どのような納まりが経年変化に強く、どのような原因によって劣化が進むのかを事例から学ぶことができ、ディテールの経年変化に対する措置の重要性を感じました。たとえばコーキング材は竣工後数年で打ち替えなければならないので、ほかの納まり方を考える、といった具合です。
亡き父が設計した建物のうちの何軒かは、修理のため伺うことがあります。全般的な印象として、経年劣化はディテールの納まり方だけが原因ではなく、技術や製品のレベルの低下によるところも大きいように感じます。腕のよい大工さんが組み立てた枠周りは35年経っても狂っていませんし、アスファルトシングルが40年前の竣工当初のままの屋根もあります。最近のアスファルトシングルが20年ほどしかもたないのと大違いです。同じ人が設計した家でも古いから劣化し、新しいとそうではないとも言えなくて、ディテールはつくる人たちの技術の高さと良質な素材や製品があってこそだと思います。技術が進歩したと言われる現代ですが、進歩の意味を考えてみる必要がありそうです。
私が設計する時、そうしたディテールの劣化や不備を気にかけるあまり、重装備なディテールになりがちです。その理由のひとつには31歳ではじめて自宅を設計した時、曲面のケラバの納まりが拙かったため、壁に水が浸入し、竣工数年後に修理をする羽目になった経験が大きいかもしれません。設計者としても、美しくありながらすべての要素を満足しているディテールを、考えることができるよう励みたいと思っています。