新建築「住宅特集」2010.12 掲載

メディア掲載

「帝塚山のセミコートハウス」 横内敏人/横内敏人建築設計事務所

「帝塚山のセミコートハウス」がある帝塚山は、大阪市内でいちばん定評のある邸宅街である。敷地の規模が大きく古くからの和風の邸宅もところどころに残り、閑静な町並みをつくっている。その中でセミコートハウスのタイル貼りの美しい外観は周辺に融け込み、落ち着きを与えている。建主さんは、この家に住むようになってから、頻繁に掃除をするようになられたそうである。外回りもいつもきれいにしていると、ご近所の方々もそれに見習って、近辺はゴミ一つなくきれいにされている。そこに住む人、周囲にもよい影響を与えることができる建築は、素晴らしい建築であると思う。人は建築をつくるが、建築も人をつくり、町をつくる。よい意味でも悪い意味でも影響力は大きく、かたちのデザインだけであってはいけないと思う。
この建物は現代建築だが、日本の伝統的な建築文化がエッセンスとして存在している。庭を囲んだリビング、ダイニング、和室の空間は庭へとつながり、塀や樹木があることによって庭はそれぞれの部屋とひとつの空間になる。部屋と庭との一体感は、軒内空間があること、そして部屋の大きさに対してバランスよく取られた庭のデザインが見事であることによって、より一層の心地良さを与えてくれる。もちろん申し分なく納められたディテールも一役買っている。リビングからは庭と和室の外観が景色となり、それぞれの部屋から他の部屋が景色となり、庭の隅の蹲や立木によって奥行きのある庭となっている。伝統的な文化を無視し、それに逆らって新しいものを生み出すというデザインもあるが、やはり伝統的な日本文化のエッセンスの延長上にあるデザイン、日本の風土に根ざしたデザインを評価したい。
単身の世帯が増え、単身者用の住宅もその住まい方(高齢者の場合)を含めて検討されるべき時代になったが、両親と子供の住宅である場合、夫婦を中心とした家族の家として設計されるべきだと思う。子供を中心としたり、両親と子供が同等とした住宅の出現は、最近の家族が子供中心の生活になっていることと無関係ではなく、家庭内での親子関係のあり方が社会でのひずみを生み出す一因になっていると思う。「帝塚山のセミコートハウス」は夫婦を中心とした家であり、心豊かに生活することができる家である。暖炉の火を囲んでのひととき、リビングとダイニングの窓を開けて、庭と一体となった気持ちのよい空間でのひととき、お客さんをもてなすにもぴったりである。友達などを招いてパーティも楽しめそうだし、来客は子供にとっては社会性を身につける機会となる。凜とした空気が漂う美しい和室、ここは子供心にも部屋の格式を感じるのではないだろうか。他の部屋では走り回ったり,寝転んだりしても、ここでは背筋を伸ばして座るというように、子供に迎合していない空間から子供が学ぶことは多いだろう。
横内さんのデザインは申し分なく、建主さんが選ばれたセンスの良い調度品も建物と調和し、取材は心洗われるひとときであった。