新建築「住宅特集」2011.01 掲載

メディア掲載

佇まいをつくるもの

 佇まいで好ましいと思うのは、目に飛び込んでくるのではなく、どちらかというと、控えめに佇んでいる建物です。美しい場所を訪ねない限り、最近は町を歩いて好ましいと思うものに出会うことはほとんど無くなりました。デザインされた建物も「美」の基準が変わってきているのか、なかなか美しい佇まいと思える物が少なくて、自分が時代についていけないように思えます。
 佇まいというと外観のことだと思ってしまいがちですが、人の内面が外見に現れているように、建物もよく見ると住まい手や建築家の思想が外に現れています。人が着飾ったりしなくても、内面が充実していてきらきらと輝く目をしていたら、美しいのと同じように、建物も見た目だけでなく内部の質の高さが外観に現れて美しいと思うのです。
 質の高さをつくるものはもちろん設計ですが、材料もその要素の一つです。たとえば、コンクリート造の場合、見た目にはいろいろなデザインが試みられていますが、その中にどれだけ質の高いコンクリートが打たれているかも問題です。丁寧に施工されて、竣工後30年以上経っても劣化していないものが美しい佇まいといえるのではないでしょうか。あちこちにひびが入り、そこから水が浸入するのであれば、鉄筋の爆裂を招きかねません。以前に竣工後20年くらいで劣化しているコンクリートと、60年は経っていると思われるのにしっかりしているコンクリートの建物を見たことがありました。コンクリートの打ち方に問題があるのではないかと思って『数式のない構造力学―増田一真』(眞木塾講義録)を読んだところ、水分の少ない固いコンクリートをしっかり打てば、200年もつと知りました。なかなか実践する機会がなかったのですが、最近コンクリート造の建物を設計する機会に恵まれ、『ひびわれのないコンクリートのつくり方―岩瀬文夫・岩瀬泰己』(日経BP社)で詳しくコンクリート造について述べられている岩瀬さんにコンサルティングをお願いしました。表面がガラス質で被われた密なコンクリートに仕上がりましたが、仕上げをしたため、見えなくなったのは残念です。見た目だけでなく、質もよいコンクリートであれば、何十年経っても年を経た美しさがあるのではないかと思っています。
 仕上げ材料が何であるかは、経年変化を考えるうえでも重要な要素になります。でき上った建物が20年、30年と時を経てどのような姿になるのか、設計の段階でいつも気になります。建材は時間と共に劣化して傷んでいきますが、できれば仕上げ材を変えることなく時間の経過が建物に落ち着きを与えてくれることが望ましい。ですから古びてもそれが「味」になる木や土などの素材が気に入っています。
住み手や建築家が内と外の境界、家の外をどのように考えてデザインしたかということもその建物が醸し出す雰囲気となって佇まいをつくります。都心の安全性は低下しているので仕方がないかもしれませんが、近隣の付き合いが残っている地域では住宅が外に対して適度に開かれ、周囲に植栽があれば、ほのぼのとした佇まいになります。自分のことだけでなく、ほかの人のことも考えるように、建物それ自体だけでなく、外に対するちょっとした配慮で、佇まいは大きく変わると思います。
丁寧につくられて長い年月を経てもち主が変わっても大事にされ、楚々と佇んで周囲の景観と調和する。古くなっても、それがかえってその建物のよさになるような、そんな住宅を設計したいものです。