新建築「住宅特集」2011.02 掲載

メディア掲載

「多面体の屋根・館山」 横河建/横河設計工房

東京駅から高速バスに乗り、南へと走る。
紺色にきらきら光る東京湾を横切り、さらに房総半島を南下すると館山に着いた。
住宅地の中の海に面した敷地に「多面体の家」は空から舞い降りたかのように佇んでいる。
横河さんは、以前に「『インテリアスキン』ということで内部空間の皮(がわ)一枚が成立すると外観が決まる」ということを探求されてたそうで、「中から決めると外は決まります」とおっしゃっていたのは、印象的だった。
しかし、自然になったという外観は非のうちどころがないほど美しい。
多面体の屋根ということも、内部空間における「包まれ感」から始まったそうだが、この土地の景観とも見事に調和している。
1月号の時評でも述べたが、内部空間の質の高さが佇まいに現れている。
外観だけをいくらつくっても内部空間が空虚であれば、それは外にも現れると思う。
リビングとダイニングは階段室の木組みによってつかず離れずの関係になるように設計されている。
多面体の屋根は内部に現れ、どこにいても身体をやさしく包んでくれる。
「多面体の屋根・岐阜ひるがの」(本誌1010)は音響効果がよく音楽と空間が一体になった、と横河さんは述べておられたが、館山は海や空と一体となり何処を見ても美しい内部空間は、それ自体が音楽を奏でているかのようである。
横河さんの研ぎ澄まされたディテールや構造家の梅沢良三さんの技量も含め、すべてが質の高さをつくっている。
主要な部屋はピロティで2階にもち上げられ、主室からの眺望はパノラマである。
正面彼方には天城山、右手遠くに見えるはずの富士山はあいにくの雲で見えなかったが、視界に広がる海は陽の光に輝いている。
それは、横河さんが寸分違わずいちばん美しい景色が見える場所を用意されたからであり、自然を取り込んだ内部空間は刻々と変化し、いつまで眺めていても飽きることがない。
ここにいると心が和み、ストレスとは無縁の生活を送ることができそうである。
終の棲家となることも視野に入れてあるので、自然豊かな敷地だが別荘地ではない。
将来建主さんが、お歳を召された時に、ご近所さんがいると心強いと判断されたからだそうだ。
空間には美しさだけでなく、一生ここで暮らしたいと思わせる魅力がある。ロフトに至る手摺りのない格子床から見える景色、心が落ち着く多面体天井の包まれ感、出たい所に用意されたデッキ、格子からの景色を楽しめる階段室、露天風呂になる浴室、眺めのよい機能的なキッチン、工作ができるワークショップ、ゲストルームにも使える炉を切った畳の間……まだまだ挙げれば限りがない。
横河さんは随分若い頃から誌面に登場し、かっこいい住宅を設計なさっていたという記憶がある。
それ以来、ずっとその質を高めてこられ、ますます素晴らしい住宅をつくられている。それは少年のようなみずみずしい感性をいつまでももち続けて創作に励んでおられるからではないか、とお会いして感じた。