樹木の伐採 / B邸

B邸 , 建築

昨日三重県の山に樹木の伐採を見に行った。現在設計中の住宅にお施主さんの山の木を使って家を建てることになり、山で「葉枯らし」をするため、涼しくなるのを待って木を切り倒したのである。2~3ヶ月の葉枯らしのあと、製材して自然乾燥を行い材木として使われることになる。


木を切って下さったのは地元の杉本さん、80歳とはとても思えない溌剌とした血色の良い方で、身のこなしも軽く木の間を飛び回られる。先に切り倒した樹木と立木との1mすこしの空間に、これから切る木が倒れることになる。枝は倒れるのと反対側にほとんど付いており、自然に任せておけば倒れてほしい方角とは逆の方になる。ワイヤーを倒れてほしい方向に少し角度をつけて引っ張る。
そしていよいよ木にチェーンソーで切りかかる。倒す方向に角度をつけ、切り目を入れてくさび形に切り欠く。もう一カ所に切り目を入れ、くさび形に切り欠く。


この角度は言葉で説明できるようなものではなくて、熟練した技術から導き出されるのだろう。背面に切り目をどんどん深く入れていくと、木が倒れ始め、どーん、と音がして、地面に横たわった。ぴったり予定していた場所に。


これを見て、もうただただ感動してしまった。生えている場所も木の大きさ、枝の生え方も全て1本ずつ違う。マニュアルで説明できるものではなく、職人の技としか言いようがない。杉本さんの腕前に感心すると同時に後継者がいないことが気にかかった。この技が次の世代へと伝えられなければならないのに、林業は衰退する一方である。木があまりに安く、山を維持する費用や切り出す費用を賄えないのである。日本は国土の3分の2が森林であるのに、山を手入れできず、このまま荒れていったら,大変なことになる。市民の意識も大切だが、やはりドイツを手本にするなどして、一刻も早く政策として取り組まれるべきものだと思う。


森の中は何とも言えない森の良い匂いがしていた。清々しい空気を胸いっぱい吸い込み、杉と檜の美しい木立を目に焼き付けて、森を後にした。