新建築「住宅特集」2010.01 掲載

メディア掲載

 

「住宅風景の転換」を読んで

「住宅風景の転換 家や暮らしが変わるとき」は興味深い特集でした。歴史上、日本の住宅は何をきっかけに、どのように変化したのかが建築史家によって、それぞれに述べられていました。内田青藏さんの「住まいそのものにも接客機能を排除した『家族だけの住まい』のひずみが現れ始めているように思う」、小沢朝江さんの「『接客』という行為は、家族が社会に対して開くこと、社会を招き入れることを意味する。住宅が社会的存在であり得るために、現代の『接客』のあり方とその空間が問われている」という話は非常に的を射た指摘でした。住宅が社会的存在である、ということは現代において非常に重要なことだと私も思っています。特に子供やお年寄りにとって、家に来てもらえるお客さんは、時には成長の糧になり、活力の源にもなります。また子供が社会人としての両親を垣間見、そこから社会を学ぶこともできます。夜遅くまでの歓談に入ることができなくても、居間の隣の子供部屋で、大人の話に耳を澄ませながらいつの間にか眠りについた経験は大人になってからの対人関係にも影響するように思えます。最近では、結婚式や法事などの集まりに使った座敷が住宅からなくなり、居間に取って代わられましたが、接客機能そのものがなくなったわけではありません。条件のいちばんよい場所にいつも使うわけではない部屋をつくるより、家族がいる場所をそれと兼ねる方が住み手の居住性がよくなるということで、その機能は食堂や居間などに受け継がれたと考えて住宅を設計している建築家は多いと思います。接客専用の部屋がなくても接客を視野に入れた計画とすることやバーベキューでもてなすデッキを設けるなどのちょっとした仕掛けを付け加えておくというように、建築家は接客をイメージして住宅を設計することができます。ところが、住み手によってはそのとおりに住んでもらえるとは限らず、私自身も狭いマンションのダイニングキッチンで海外からのお客をもてなした経験もあり、接客には心のこもったお料理と楽しい会話があれば、たとえ接客のための部屋がなくても接客でき、接客空間をつくっても、住み手の状況次第で使われないこともあり得るところが、難しいものです。ともあれ、住宅が社会的存在であり続けるための問いかけや提案はしていきたいものです。
源愛日児さんの「壁の空間へ―木造軸組構法と住様式」で1933年の「耐震建築問答」が現在の在来木造構法につながることを知りました。木造住宅の構造設計の選択肢が広がり、もっと自由な設計が容易に可能になることを望んでいる者にとって、1000年以上改良を重ねてこられた構法が廃れ、76年しか経っていない構法が木造住宅の主流になっていることが、奇異に感じられました。
先日大型振動台E-ディフェンスの実験で、耐震等級2の木造3階建長期優良住宅が震度6強で横転し、同じ設計で柱の足元の接合部を弱くしてあり、同等級に満たない試験体が倒壊しなかったということがありました。これを受けて参議院国土交通委員会において、伝統構法についての質疑が行われ、前原大臣から「伝統構法を建築基準法見直しのひとつとして検討する」という答えを引き出したことは喜ばしい出来事でした。
壁の空間あり、軸の空間ありと多様な空間が木造建築でも容易に可能になるような建築基準法になれば、住宅も発展の可能性がまだまだ広がるように思います。