石井修と外国

エッセイ・コラム

父が生前に外国へ行ったのは、4カ国だけですが、どうしてもっとたくさん旅行しなかったのかと訊いておかなかったのを、最近残念に思っています。最初行ったのは、40代半ばの時イタリアで、1ヶ月程ホームステイで滞在してあちこちを訪ね、建築や町並みの素晴らしさを帰って語っていたのを覚えています。何年か経って、イタリアンレストランのインテリア設計を理由にまたイタリアへ行きました。あまりにもイタリア好きになったせいかヨーロッパの他の国には行きませんでした。その後行ったのは、スキーでカナダ、仕事関係で台湾とバリ島だけです。バリ島は設計においてとても影響を受け、著書「入り江の結晶」でそのことを述べています。
父が亡くなってから、父の足跡を訪ねてみたくなり、3年前にイタリアへ旅行し、今年はバリ島を訪ねました。バリ島の建築を見てとても父が影響を受けているように思いましたが、バリを訪ねたのは晩年です。どうしてかしら、と考えていて、20歳頃戦争でマーシャル諸島など熱帯の島にいたこを思い出しました。年中温暖で外と内が一体になり、いつも自然共にある暮らしの心地よさが、青年であった父の身体に刻み込まれたのではないかと思います。本人は意識していなかったようですが、「人間は自然の中の一員である。」ということが根底にある設計思想には、父が述べていた奈良、明日香だけでなく南国の島々での体験があるように思います。